■精神的ストレスをどうコントロールする?

母国を離れ、海外で生活するのはストレスが付きまとうものです。特に海外生活を始めたばかりの人にとっては、非常に深刻な間葉です。個人差もあると思いますが、日常生活を送るうえでかかってくるストレスは、日本にいるときの3倍くらいになるのではないでしょうか。それは、言葉が通じない、知り合いがいない、習慣が違うなど、たくさんの間畏を克服して現地に適応しなければならないからです。ストレスの管理に失敗すると、日本ばかりを褒め、現地の国を悪く言う変な愛国心が現われて、適応するどころかはうほうの体で日本に逃げ帰ることにもなりかねません。

「海外生活? 任せてください。私は大学時代から英会話サークルで活躍し、語学にはまったく不安はありません」 企業にいて海外赴任をされるくらいの人なら、語学がある程度できる方は多いでしょう。しかし、海外生活が成功するか否かは、派遣される本人の適応能力ではなく、むしろ帯同する家族の適応能力が重要になってきます。 家族で海外赴任したとき、夫とその妻ではストレスの受け方はずいぶん遠います。夫は仕事があるため、それなりの充実感を持って生活できますが、妻は一人家に残り、言葉もしやべれず社会と遮断され、夫よりもストレスを受けやすい状況にあります。そのため、せっかく夫の仕事がうまくいっても、妻がノイローゼになってしまって海外赴任が失敗に終わったという詰もよく聞きます。ですから海外生活を成功させるためには、まず妻や子供など家族のことを中心に考える必要があります。  

では、家族が適応していくためには何が必要になるのでしょうか。海外生活を送るにあたって、現地の言葉を話せればそれに越したことはありません。しかし、ある程度大人になってから移住した場合、ネイティブスピーカーのように、自然に言葉や文化を習得することは不可能です。そこを頑張って、無理に現地に溶け込もうとすると、疲れるだけでかえって逆効果になることがあります。日本のものを一切身辺から排除して現地に溶け込もうとする。日本人とも会わないし、日本語も話さない。特に努力家の性格の人に多く見られるようですが、海外生活に無理な頑張りは禁物です。

ストレスの感じ方は人によって遠いますが、一番大きなストレスの原因として挙げられるのは、外国の言葉が話せないことではなく、日本の情報や文化から隔離されてしまうことにあります。日本で見ていたテレビドラマの続きはどうなったんだろう、プロ野球や相撲の結果はどうなったのかしら。このように日本の情報から切り離されてしまうことが、ストレスの原因となります。ですから、精神的ストレスを感じている人がとるべき対策は、日本のものをできるだけ身辺に置き、日本にいるのと同じ環境を作ることです。日本語の新聞を読み、日本のテレビ、ラジオを見聞きして日本語のビデオを見る。また、たくさんの日本人の友達を作り、なるべく日本語で話す機会をもつ、これが海外生活サバイパルの極意です。よく「日本人は、日本人ばかりで群れる傾向がある」と、われわれの欠点のように言われることがありますが、たとえそう言われたとしても、ノイローゼになるよりははるかにましです。それに日本人でなくても、出身地が同じ人たちは必ず一緒にいるものです。こうして毎日の生活で自分が最もリラックスできる生活環境をまず作っておいて、それから自分のペースで現地に溶け込んでいく。何かにつまずいたら、すぐに自分の世界に戻ってちょっと休憩する、そしてまた徐々に溶け込んでいけばいいのです。

人は、自分が育った故郷がよく思えるものです。それがたとえ極寒のへき地であろうと、自分の育ったところは格別です。たとえば、何年かぶりに自分の通った小学校を訪れると、育った町が急に親しく感じることがあります。それは、小学校に行くと急に友達の記憶がよみがえり、どこの角にはやんちゃな○○ちゃん、あそこを曲がった3軒目には泣き虫の××ちゃんがいて、△△ちゃんのお兄ちゃんはかっこいいとか、いろいろな友達のことが思い出されます。だから故郷はよいのです。もしも、自分の知っている人がいなくなったら、もはやそこは本当の故郷ではありません。親しい人が多ければ多いほど、その土地が住みやすくなります。親しい人がたくさんいれば、たとえサハラ砂漠でも天国のように感じるでしょう。しかし、そういラ友人が誰もいないと、ハワイのような快適な環境のところでも、そこはつまらない場所という印象ができ上がってしまいます。海外生活では親しい人をどれだけ作れるかが、まさに成功のカギを握っているのです。

海外では、積極的な性格の人が適応にも成功しやすいと言われます。誰も友人になってくれないと言うだけで、ただ待っているだけでは何年たっても友人はできません。引っ込み思案の人もほんの少し勇気を出すことで、たくさんの友人ができるはずです。海外で友人を作る一番簡単な方法は、友人になりたいと思う人を食事に招くことです。人は一緒に食事をすると親しみの情が強くなります。別に無理して褒章な料理を出す必要はありません。日本人はとかく、人を食事に招くからには高級な料理でもてなさないと相手に失礼だと考えてしまいます。

そのため、人を招くのがつい億劫になってしまい、友達になる機会を作れずに終わってしまいます。ご馳走をふるまう大きなパーティーを年に1国開くよりは、質素な食事でも、何度も人を招いて楽しんだほうが多くの友人ができるチャンスが広がります。食べることが月的ではなく、友人としやべることが目的なのですから。友達を作るきっかけは、そのほかにもいろいろなところにあるはずです。積極的に友人を増やしていけば、精神的なストレスは次第に減ってくることでしょう。


JALFamily Letter 2001年 春号「海外で元気に暮らす」より
小林恵一=文
ハワイ・ホノルル市/聖ルカ総合内科クリニック院長/アメリカ内科学会諦定内科専門医

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